児童虐待・親の問題(DVを含む)について(その3) | 豊中市 千里中央駅直結の心療内科 「杉浦こころのクリニック」

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児童虐待・親の問題(DVを含む)について

Ⅲ.虐待をしてしまう親への治療・ケア

●支援の目標

虐待ケースへの支援の最大の目標は、子どもの心身の安全を守ることです。たとえば親個人の治療を行っていくなかで、かえって子どもへの危険が増すことがあります。そのような変化には十分に気を配り、一時的に子どもを分離するなどの配慮が必要になることもあります。

●連携による総合的な支援

虐待ケースに対する支援が親子別々に行われることには危険が伴います。支援者を振り回して分断を図るような親が少なくないからです。また、虐待ケースでは常に虐待が悪化して危機状態になる危険をはらんでいます。したがって、虐待ケースに関しては、医療のみではなく、保健・福祉・教育などと連携して総合的な支援計画を立て、その一部としての治療という自覚をもつ必要があります。

●虐待のメカニズムの理解

それぞれのケースで、どのようなメカニズムで虐待が起き、エスカレートしているかを理解し、効果的な介入方法を考えることが重要です。

●治療意欲の形成

親の治療で最も大切なのは、治療意欲の形成です。自己の行動を変容させたいという思いをもった段階で、かなりの治療目標が達成されたといってよいです。今後、強制されての治療が増加してくると考えられます。根気よい治療意欲の形成が必要となります。

●個人的な治療

親子関係の改善のためには、親の自己感を現実的なものにし、自己評価を高めなければなりません。親は治療者に認められることで、初めて自己感が変容していきます。したがって、治療者は親を否定するのではなく、親の気持ちを受け入れたうえで、子育てへの認知や行動の変容を図る必要があります。親が治療者に依存しはじめたり、退行が始まったりすると、虐待が悪化することもあります。あくまで親としての自立を促すように治療を進める必要があります。そのうえで、虐待に至るメカニズムを認識し、1つずつ目標を立てて養育行動や認知を変化させていきます。

親が精神障害を抱えている場合はそれに対する治療が必要になりますが、虐待の現象と一致するとは限りません。親の改善だけではなく、子どもへの養育行動に関しても、把握しながら治療を進める必要があります。一時的な親子分離を考慮する必要が生じることもあります。

●家族や夫婦への治療

夫婦関係や家族関係への直接治療が有効なことも多いです。だれかを悪者にしたり、スケープゴートにしたりすることなく、中立な立場で治療を進めることが原則です。夫婦や家族内でのコミュニケーションパターンや悪循環に焦点を当て、コミュニケーションや行動パターンを変化させていきます。

●虐待の悪循環への介入

虐待を受けた子どもは人を苛立たせる行動をとりがちになり、そのため親による虐待がエスカレートするといった悪循環が起きます。夫婦の関係などが絡んでいることもあります。虐待の悪循環を意識して介入し、虐待のエスカレートをできるだけ早期に食い止めることが大切です。子どもへの治療も欠かせません。

●DVのサイクル

DVも子どもにとっては虐待です。DVは周期的に悪化し、ときにエスカレートします。激しい暴力の後、加害者が謝り、安定した時期になります。すると、被害者は「この人には自分が必要。自分の我慢には意味がある」といった認識に立つのですが、また徐々に暴力が増加していきます。被害者への支援では、落ち着いた時期の認識のゆがみを意識させ、子どもを守る行動がとれるように支援しなければなりません。加害者への治療では、支配しなければ自分が保てないという認識を変えていく必要があります。

●親の集団療法

親が自分と同じような人と出会い、一緒に行動を変えていこうとすることが有効であることが知られています。

Ⅳ.終わりに

虐待をしてしまう親や家族への治療は社会的に強く求められている課題であり、精神医療への期待も高いです。しかし、個人の病理を投薬や精神療法で治療するのみではなく、関係性の問題への治療が求められており、このような治療を確立することが急務です。

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