ホーム > 疾患・症状 > 児童虐待・親の問題(DVを含む)
虐待ケースの研究から、危険因子が特定されてきましたが、危険因子が必ず虐待につながるわけではありません。ここでは虐待のメカニズムを理解し、支援に役に立つと考えられる危険因子のいくつかを挙げておきます。
虐待をする人には虐待を受けた体験をもつ人が多いことが知られています。また、DVの被害者や、子どもを虐待する人をパートナーに選んでしまう人にも被虐待体験者が多いことも知られています。虐待を受けた人は自己評価が低く、子どもの些細な反応で自分が責められているように感じて虐待に至ることもあります。また、虐待が子育てのモデルになってしまう傾向もあります。さらに、ネグレクトなどでよい愛着体験がない人は、守られている感覚や他人への信頼がなく、常に臨戦態勢をとりがちで、些細なことでも爆発しやすかったり、包まれることで感情をうまく収めてもらった体験が欠如しているため、うまく感情を抑えきれない傾向があり、それが虐待につながることもあります。虐待を受けた子どもを保護してよい環境を与えることは、次世代における虐待の予防ともなるのです。
過去の被虐待体験がなくても、感情を抑えることができない人は、手のかかる子どもに我慢できず、暴力をふるうことがあります。
相手の痛みが感じられない人は、虐待に至る可能性が高いです。性的虐待を行う人のなかには、「子どもが喜んでいた」という人も多いです。誤った認識が虐待に結びつきます。
子育てに関する誤った知識や偏った方法への執着が虐待になることがあります。
身体的・心理的暴力で相手を支配する人間関係をとる性格の人は、虐待やDVの加害者になりやすいです。特に、子どもを性的対象とする傾向のある人はこのタイプが多いです。
アルコールや薬物依存の人は、虐待の加害者となる可能性が高いです。特に覚せい剤などの薬物依存は感情が爆発するので危険が高いです。薬物依存があるときには、まず子どもを分離し、虐待者が薬物依存から離脱したことを確かめてから子どもと接触させるほうがよいです。
うつ状態の親は子どもに適切な愛着行動をとることが困難になったり、苛立ちが強くなり、身体的虐待やネグレクトにつながってしまうことがあります。産後のうつ状態に対しては適切な支援が必要です。
子どもと親だけの密室での子育ては不安を強くし、子どもと適切な愛着がとれなくなる危険があります。
精神遅滞では基本的な子育ての技術の習得が困難であったり、自己評価の低さが影響してネグレクトにつながってしまうことがあり、支援が必要となります。高機能広汎性発達障害や学習障害、注意欠陥/多動性障害などで生活に対する柔軟さがもてなかったり、状況が判断できないなどの問題が、ネグレクトや苛立ちにつながることがあります。また、不注意から子どもに安全な環境が与えられずに、事故を繰り返すこともあります。
子どもを虐待する親が精神病である確率は意外に低いとされています。しかし、自己の世界にこもって子育てができなくなったり、子育てのストレスから他者とのかかわりを絶ってしまうことがネグレクトにつながることは少なからずあります。
虐待をする親に夫婦の問題が存在していることはよくあります。パートナーや義父母への苛立ちが子どもへの暴力につながることは多いです。また夫が暴力的である場合、夫の暴力を恐れて妻も子どもへの虐待に加担してしまう場合さえあります。
家族内の人間関係が暴力的支配関係になっているときには、子どもに対しても暴力での支配が行われることが多いです。
経済的問題が家族の心を蝕んで、それが虐待につながることがあります。たとえば、夫の突然の失業で家族全体がうつ状態となり、夫婦の苛立ちも激しくなって、子どもに虐待が加えられることもあります。
家族をつなぎとめる役をしていた祖母が亡くなった後に家族関係がうまくいかなくなって虐待に至ったり、子どもの突然の死に伴う親の「喪の作業」がうまくいかず、残された兄弟に愛情を向けることができなくなってネグレクトとなったり、転居に伴うストレスから虐待が始まるようなケースもあります。ストレスがなければ虐待には至らない家族もストレス下で虐待に至ってしまうことがあります。
地域社会のなかで家族が孤立していることは、そのなかでの虐待の危険因子の1つです。孤立そのものがストレスとなるだけではなく、虐待を見えづらくする恐れもあります。
未熟児は虐待を受ける頻度が一般より高いことが知られています。その理由として、生後長期にわたり母子が分離することで、母親が子どもに愛着をもちにくくなるということが考えられています。予防的には、周産期のケアを充実させて、できるだけ早期からのかかわりを重視する必要性があります。
Difficult babyといわれる気質や障害など、何らかの育てにくさが子どもにあることも虐待の危険因子です。
自分を愛してくれなかった親や別れた相手といった、好ましくない人を思い出させる顔や行動が、虐待の引き金になることがあります。
虐待に至る危険因子の研究は比較的よく行われてきました。しかしながら、危険因子が多くても虐待に至らない場合もあります。そのことから、抵抗因子(resilient factor)も重要視されるようになってきています。たとえば、生まれもった気質や小さいころの愛着体験は、その後に著明な虐待を受けてもそれに抵抗してよい家庭を営むことができるようになるといったことや、著明な虐待のなかで育っていても、加害者以外の他者がその子どもを認めることで子どもが生きることへの自信をもち、他者を信用できるようになるといったことです。つまり、マイナスを少なくするだけではなく、プラスを多くしていくことも重要なのです。