パニック障害は、秒単位あるいは数分以内にピークに達する、反復する不安発作を特徴とします。明瞭な身体器質因子のない精神疾患で、発作への予期不安を伴い、そのために社会活動を回避します。
一卵性双生児は二卵性双生児より2人ともパニック障害を発症する割合が高いこと、パニック障害患者の一親等内に同疾患罹患者がいる割合は17%と高率であることなど、遺伝的な因子の関与が示唆されています。症状発症には、扁桃体を含む恐怖の神経ネットワークの異常が推定されています。
発症前に大きなライフイベントを経験していることが多く、幼少児の性的も含めた虐待や10代の喫煙は高リスクであることがわかっています。
反復するパニック発作を特徴とします。それは、不意に出現する自制心を失いそうな、あるいは死ぬのではないかといった激しい恐怖感と、動悸、発汗、ふるえ、息苦しさ、胸痛、悪心、めまい、寒気、火照り、感覚異常といった身体症状で構成されます。
また、発作が起きるのではないかといった持続した心配や、そのために社会活動を回避する傾向も認められます。
すなわち、パニック障害の症状をまとめると、パニック発作、予期不安、広場恐怖が3大症状ということができます。中でもパニック発作、それも予期しないパニック発作がパニック障害の必須症状であり、予期不安、広場恐怖はそれに伴って二次的に生じた不安症状といえます。そして症状のみならず広場恐怖によるQOLの低下が、この障害のもうひとつの特徴です。
パニック障害かどうかを決めるための第一の条件は、「予期しない発作」であることです。「パニック発作」はパニック障害の特徴的な症状で、急性・突発性の不安の発作です。突然の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴った強い不安に襲われるもので、多くの場合、忠者は心臓発作ではないか、死んでしまうのではないかなどと考え、救急車で病院へかけつけます。しかし症状は病院に着いたころにはほとんどおさまっていて、検査などでもとくに異常はみられません。そのまま帰宅しますが、数日を置かずまた発作を繰り返します。
パニック発作は恐怖症、強迫性障害、PTSDなどのほかの不安障害、うつ病、統合失調症、身体疾患や物質関連障害などでも同様の症状がみられますが、パニック障害で経験するパニック発作は、「予期しない発作」です。原因やきっかけなしに起こる、いつどこで起こるかわからない発作を「予期しない発作」といいます。恐怖症の人が(たとえばヘビ恐怖症の人が恐怖対象のヘビに出会った時)に起こるパニック発作は、「状況依存性発作」であり予期しない発作ではありません。ただし、パニック障害の患者に、両方のタイプの発作が起こることはありえます。
パニック障害では通常は「また発作が起こるのではないか」という心配が続くことが多く、これを「予期不安」といいます。発作を予期することによる不安という意味です。その他、「心臓発作ではないか」「自分を失ってしまうのではないか」などと、発作のことをあれこれ心配し続けたり、口には出さなくても発作を心配して「仕事をやめる」などの行動上の変化がみられる場合です。いずれも、パニック発作がない時(発作間欠期)も、それに関連した不安があり、1ヶ月以上続いているということを意味しています。
パニック障害は広場恐怖を伴うものと伴わないものに分けられますが、伴う場合の条件です。「広場恐怖」というのは、パニック発作やパニック様症状が起きた時、そこから逃れられない、あるいは助けが得られないような場所や状況を恐れ、避ける症状をいいます。そのような場所や状況は広場とは限りません。一人での外出、乗り物に乗る、人混み、行列に並ぶ、橋の上、高速道路、美容院へ行く、歯医者にかかる、劇場、会議などがあります。広場というより、行動の自由が束縛されて、発作が起きたときすぐに逃げられない場所や状況が対象になりやすいことがわかります。一方、「パニック様症状」というのは、パニック発作の基準は満たさないが、それと似た症状という意味です。
パニック障害ではほとんどの患者がこの広場恐怖を伴っていて、日常生活や仕事に支障を来す場合が多くみられます。サラリーマンであれば電車での通勤や出張、主婦であれば買い物などが、しばしば困難になります。誰か信頼できる人が同伴していれば可能であったり、近くであれば外出も可能であったりしますが、その結果、家族に依存したり、行動半径が縮小した生活を余儀なくされる場合が多く、広場恐怖を伴うパニック障害によるQOL(Quality of Life、生活の質) の低下は、見かけ以上に大きいといわれています。