統合失調症は思春期から青年期に発症し、幻覚、妄想、自我障害といった陽性症状と、感情鈍麻、無為自閉といった陰性症状により特徴づけられる疾患です。経過はさまざまですが、急性の精神病性エピソードを繰り返しながら慢性に経過することが多いとされてきました。しかし近年、多くの知見から精神病発症から治療開始までの期間(未治療期間)が治療反応性に大 きく影響しており、発症から5年とされる治療臨界期までに適切な治療介入をすることで、進 行性の脳構造変化や認知機能低下を予防し、長期の社会機能を改善させることができると期待 されています。また、症状の軽症化もしばしば指摘されており、専門病院での長期入院から地 域ケアによる外来治療が中心となってきました。すなわち、統合失調症の治療観はかつての「もう治らない進行性で悲観的な疾患」から「早期発見・早期介入により十分間復可能な疾患」へと変遷してきました。
統合失調症の病因については、残念ながらいまだに解明されていません。しかしながら、近年いくつかの研究分野で進展がみられています。神経病理分野では、長年仮説にすぎなかったドーパミン過剰放出と精神病症状の関連が線条体で確認され、脳構造変化として側頭葉およびその内側部、前頭葉などの軽度萎縮が病初期の数年間に生じることが詳細なMRI研究により報告されています。また、遺伝要因の関与についてもさまざまな証左が示されています。
一方、病因病態仮説としては「脆弱性 - ストレスモデル」が提唱されています。このモデルは統合失調症への脆弱性を持つ個体にストレスが加わることによって、精神病エピソードが生じるとするものです。最近では脆弱性とは対照的に発症に対する抵抗力や疾患からの回復力に着目した「レジリアンスモデル」も重要視されています。
統合失調症の発症形式はさまざまでありますが、多くの症例で初回精神病エピソード前に非特異的な前駆症状がみられます。たとえば、落ち着きのなさ、抑うつ気分、不安焦燥、集中力低下といった症状から、統合失調症の診断基準を満たさない程度の短期間・間欠的な精神病症状や軽度の幻覚・妄想などの陽性症状があげられます。これらの症状は後方視的には前駆症状とみなすことができますが、前駆症状を呈するものすべてが統合失調症をはじめとする精神病状態を発症するわけではなく、偽陽性を含むことに注意が必要です。精神病への発展のいかんにかかわらず、早期治療の重要性からも、この時期の病態に対してその援助希求に対し適切な対処が求められています。
初回精神病エピソードや再発時の急性期には幻覚、妄想、自我障害などの陽性症状を中心に、思考のまとまらなさ(連合弛緩や滅裂思考)、自発性減退、感情鈍麻や平抜化、不安、焦燥、興奮、自閉など多彩な精神症状が出現します。幻覚の種類としては幻聴が多く、その内容は複数の声が患者のことを話し合う対話形式の幻聴や、自分の考えや行動を批判する幻聴などが特徴的です。妄想としては被害的内容の妄想(被害関係妄想)が特徴的です。多くの患者が病識に乏しいことも特徴です。
慢性的な経過をたどるにつれて、感情鈍麻、思考や会話の貧困化、無為自閉といった陰性症状が前景となります。また、記憶、注意、遂行機能などの認知機能にも障害を及ぼすため 社会生活にさまざまな支障が生じます。社会機能の低下は幻覚や妄想などの陽性症状とは相関せず、病初期の陰性症状や認知機能障害と相関することがわかっており、認知機能障害は予後の指標の一つとも考えられています。
慢性期においても幻覚妄想はしばしばみられますが、急性期に比較すると不安や恐怖などの感情反応を伴わないことが多いです。