近年、子どものうつ病は一般に認識されているよりもずっと多く存在するということが明らかになってきました。欧米の疫学研究によると、子どものうつ病の有病率は、児童期で0.5~2.5%、思春期では2.0~8.0%です。しかも、従来考えられてきたほど楽観はできず、適切な治療が行われなければ、大人になって再発したり、他のさまざまな障害を合併したり、対人関係や社会生活における障害がもち越されてしまう場合も少なくないと考えられるようになりました。今や子どものうつ病をきちんと診断し、適切な治療と予防を行うことが急務となっています。
基本症状は大人と同様であり、身体症状として、睡眠障害(中途覚醒・早朝覚醒)、食欲障害(食欲低下・体重減少)、日内変動(朝調子が悪い)、身体のだるさなどがみられ、精神症状としては、興味・喜びの減退、気力の低下、集中力の減退などが認められます。特徴的な症状としては、身体的愁訴(頭痛、腹痛)、イライラ感、社会的ひきこもり(不登校)が挙げられます。また、大人のうつ病の中心症状である抑うつ気分に関しては、子どもはあまり言語化できないことが特徴です。
子どものうつ病は、単独より他の精神障害に合併して発症することが多いです。不安障害(強迫性障害、社会不安障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉)、摂食障害、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、行為障害などに合併して出現することが多いです。
治療のポイントは、心理教育、薬物療法、精神療法、家族療法の4つを総合的に行うことです。まず、子どもとその家族に、病気と治療の方法についてわかりやすく、かつ詳しく説明する必要があります。そして、現在の状態は単に嫌なことがあって落ち込んでいる状態ではなく、怠けでも性格の問題でもなく、「うつ病という身体の病気」であるから十分に休養をとる必要性を強調します。
薬物療法としては選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬です。これまでに有効性が確認されている薬物はfluoxetine(未発売)、塩酸パロキセチン、セルトラリンの3剤のみでありますが、最近、塩酸バロキセチンは情動不安定、自傷行為を増加させるとして、児童・思春期のうつ病に対して使用禁忌となりました。したがって現在わが国では、子どものうつ病の薬物療法としては、SSRIのマレイン酸フルボキサミンとセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の塩酸ミルナシプランを注意深く観察しながら使用していくのが現実的でしょう。
精神療法的方法としては、子どもたちの若しかった状況に耳を傾け、つらさを理解することに努めます。治療が進むに従い、子どもの真の感情や考えを言葉で表現するように援助していきます。状態に応じて認知療法的アプローチを行うこともあります。家族に対しては、これまでの苦労をねぎらい、当面の対応の仕方を助言し、ともに情報を交換しながら協力関係を作っていくことが重要です。