ホーム > ストレス社会で病んだ現代人について(Ⅱ.ストレス社会がつくるこころの病)
こころと身体がどういうふうに関係しあうかというメカニズムについては、きわめて複雑で、われわれの常識を超えるものがあるというほかはなく、まだ充分にはわかっていないところがたくさんあります。
現代社会は、経済的に豊かになり、科学技術も高度に発達し、より便利で快適な生活が実現しているわけですが、「ストレス社会」ともいわれています。
ますます激しくなる競争社会、管理社会のなかで、現代人は多くのストレスを抱えており、それが原因で「こころの病」にかかる人が増えているのです。
現代人のこころの病の要因には、管理社会、競争社会によるストレス以外に、高齢化社会によって増えたストレスもあります。医学の進歩で平均寿命は長くなりましたが、高齢者には、孤独や家族との軋轢、死への不安といったこころの負担や種々の身体的障害がつきまといます。そのために精神的に支障が起きやすくなるのです。
また核家族化が進み、母子の密着の度合いも強くなり、子どものしつけも母親だけに任されるようになりました。それが、子どものこころの発達に複雑に影響を与え、青少年のこころの病を増やしているようです。
ところで、ストレスがこころの病の原因になるとは、どういうことなのでしょう。
ストレスとは、一方では広いあいまいな概念ですが 、専門的にいうと、「生体に刺激(ストレッサー)が与えられたときに生じる、生体側の歪み」です。
例えば、人間は刺激を与えられると、驚いたり、恐れたり、怒りを感じたり、時には興奮するなど、こころが大きく変化します。このこころの変化が「ストレス」なのです。
ストレスは一見、こころの問題だけのように感じますが、実はこのとき、身体のほうにもそれに伴うさまざまな変化が生じています。怖いと顔が真っ青になり、怒ると顔が真っ赤になり、緊張すると心臓がドキドキしますが、これも、感情の変化に伴う身体の反応の結果なのです。
ただ、身体にはいつも平常な状態を維持しようとする力があるため、「生体側の歪み」もすぐに元に戻ります。適度な刺激は一種の活力源であり、また心身的な抵抗力をつけるうえでも多少は必要なものなのです。
ですから、ストレスがあっても、ある程度はこころも身体もそれに耐えることができます。ところが、あまりに間断なく刺激が続くと、最後には、元の状態に戻ろうとする身体の動きが阻害されてしまいます。衝撃に強く、強力性のある金属の柱も、一定以上の力が加わればポッキリ折れます。それと同様に、ストレスが過剰になると、こころも体もついに耐えられなくなり、その結果としてこころの病に侵されてしまうのです。
こころと身体のあいだに、密接不可分な関係があって、四六時中、身体はこころを、こころは身体を規制しあっています。しかも、どちらが主で、どちらが従ということは決まっているわけではなく、あるときは身体が、あるときはこころが主となるという具合です。
健康には身体とこころの関係がよい状態にあることと、それを支えるよい生活環境、よい生活習慣のあることが最も大事です。
経済的に豊かになり、科学技術も高度に発達し、より便利で快適な生活が実現しているのが現代社会です。その一方で、ストレス社会とも呼ばれるこの社会で、現代人は多くのストレスを抱えて、こころの病に悩んでいます。その要因は、管理社会、競争社会、高齢化社会による孤独など、さまざまです。
現代社会だからこそ生まれた、ストレスからくるこころの病には、つぎのようなものがあります。
バーンアウトシンドローム(burnout syndrome)は、1980年にアメリカの心理学者、ハーバー ド・フロイデンバーガーが最初に用いた言葉で、彼の定義によると、「持続的な職務上ストレスに起因する衰弱状態により、意欲喪失と情緒荒廃、疾病に対する抵抗力の低下、対人関係の親密さ源弱、人生に対する慢性的不満と悲観、職務上能率低下と職務怠慢をもたらす症候群」ということになります。
朝起きられない、会社に行きたくない、お酒の量が増えるなどから始まり、家庭生活の崩壊、対人関係を避ける、そして最悪の場合自殺や犯罪を起こしてしまうというケースもあります。
ワーカホリック(仕事中毒)と呼ばれる人たちが、特にこの症候群に入りやすいようです。
高い競争力を突破して入社したサラリーマンが、5月休み明けのころから急に仕事に対する関心や意欲を失い、無気力な状態に陥ってしまう状態です。いわゆる5月病で、受験戦争を勝ち抜いて入学した大学生の場合はステユーデント・アパシーと呼ばれます。アパシーとは、意欲・感情・情熱がスランプになった状態のことです。
テクノストレスとは、コンピュータに過剰に適応したり、逆にうまく適応できないために生じる心身の障害です。その障害により、さまざまな病態が現れるので、テクノストレス症候群と呼ばれています。
布団に入ってもなかなか眠れない、うなされて途中で何度も目が覚め熟睡できない、目が覚めた後寝付けないことにより、疲労感が残ったり、朝起きれない、起きても気力がでないなど、日常の生活、健康に支障をきたす状態が続くのが不眠症です。
精神的に心、身体に不調があらわれる状態であり、ストレス等により自律神経が乱れた時に発症します。症状の特徴として、全身の倦怠感、頭痛、肩こり、多汗、しびれ、動悸、めまい、不整脈、不眠などが引き起こされます。また、精神的な症状では、不安、緊張、躁うつなどがあります。
キッチンドランカーとは、アルコール依存症の女性を指す造語です。主婦が台所の隅でお酒を隠れて飲むことから言われるようになりました。核家族化が進み、育児や家事に1人で追われ、相談相手もなく、マニュアル本に頼ることしかできずに育児ノイローゼになる若い母親にも増えています。
最も多いのは40代くらいの家庭の主婦で、子育てが終わって目標がなくなり、喪失感、家庭内の事情によるストレスなどから、お酒に逃避するケースです。夫は仕事で多忙で、妻は育児の時間がなくなった分、1人の時間が増えます。外で飲む機会もなく、趣味もなく、いつの間にか昼間からこっそりお酒を飲むようになるというパターンが多いようです。
ただし、女性のアルコール依存症は男性に比べて症状が軽いので、早く気づいてお酒を断つようにしましょう。体質的にも女性は男性に比べてアルコール依存症に陥りやすいので、最初が肝心です。
社会から逃避して、自室からほとんど外出しない状況のこと、あるいはそうして閉じこもる人のことです。自閉症とは違います。
NHK福祉ネットワークによると、2005年度の引きこもりは160万人以上存在するといいます。まれに外出する程度の準引きこもりを含めると300万人以上存在します。そのうち8割以上は男性です。また、学齢期にある者ばかりでなく、中年期の引きこもりも増えています。
引きこもりの原因はさまざまで、・学校や会社におけるいじめや肉体的苦痛から逃れるため、・家族関係のトラウマ、・過干渉などから自己肯定感をもてずに成長した、・格差社会に圧倒され、・人生に絶望して身動きがとれない状態、・自分が目にしたくない現実、・不快な人たち、・場所、集団を見ないですませるために閉じこもる、などです。
うつ病の特徴として、気力の低下、疲れやだるさ、精神的な落ち込み、やる気や興味が湧かないなどです。これらは特別な病気ではないのに発症し、自身の力で回復するのが難しい状態になります。更に細かい症状として、イライラ、疲れやだるさがひどくなり持続する、食欲不振減退、睡眠障害、動きが鈍ったり、集中力低下など心と身体の両方において症状があらわれます。
高齢になってくると、体の機能が低下して、若いころは何でもなくできたことができなくなることが多くなります。また、友人も少なくなり、外出の機会も減り、もう自分は世の中や家族の役に立たない、などと思いこんでしまうこともあるでしょう。一人暮らしの孤独感につらい思いをしている高齢者も多いようです。このような状況から憂うつな気分になり、老人性うつ病になるケースが多いようです。
老人だから当たり前、と思いがちな症状も、実は老人性うつ病が原因になっていることも少なくないのです。自分の健康や周囲の人々、社会的な仕事などを失っていく現状を受け入れ、乗り越えていくためにも、家族や周囲の人が気をつけてあげましょう。また、・新しいことを始めようという気持ちを持たせる、・若い人と会話する機会を持つようにする、・ガーデニングや盆栽など、自然とともに過ごす時間を持つ、・老人会や同好会など、楽しみを共有できる集会に参加する、といったことを働きかけてあげましょう。