ホーム > 疾患・症状 > 生活・行動面の変化(ひきこもり)
A11. ひきこもりという現象は、義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家の外での仲間との交遊などの社会参加を避けて、一応6カ月をめどに、それ以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態です。
この「おおむね家庭にとどまり続ける」という状態には、他者とは交わらない形で外出はできる、たとえば人目を避けながら本屋へ行く、深夜にコンビニエンスストアに行くといった場合も含んでいます。
ひきこもりの始まる年齢は子どもから大人までさまざまですが、小学校以後の児童・生徒のひきこもりは「不登校」と呼ばれることになります。
不登校の子どものすべてではないにしても、その多くが青年期およびそれ以降のひきこもりと同じ状態と考えてよいでしょう。なお、ひきこもりは原則として、統合失調症の幻覚や妄想をはじめとする症状(「陽性症状」といわれています)、あるいは意欲の減退や感情のみずみずしさを失っていくといった症状(「陰性症状」といわれています)などによって生じているひきこもり状態とは異なる非精神病性の現象と定義しています。しかし実際には、ひきこもりとされる人の中にそれと診断されてはいない統合失調症の人が少なからず存在することを忘れてはいけません。
それでは人はなぜ、ひきこもりになるのでしょうか。残念ながら、ひきこもりに一言でいえるような原因はありません。人は常に環境と自分のこころとの相互作用の中に存在しており、環境からのストレスとそれに対処しようとするこころの力とのバランスがとれていれば健康なこころの状態が維持され、そのバランスが崩れれば不健康なこころの状態に陥る危険が高まるということです。このバランスの崩れはすぐに不健康なこころを招くわけではありませんが、バランスが崩れた状態が長く続けば、だんだんと不安や緊張が高まったり、精神的な疲労がたまっていったりします。それが一定の水準を超えれば、社会不安障害やパニック障害、あるいはうつ病性障害と呼ばれるこころの病気にかかります。大半のひきこもりはなんらかのこころの病気を背景として、社会活動の場にとどまることができなくなった状態ととらえるべきでしょう。
さて、このストレスとこころの力のバランスですが、たとえば学校や会社などでの活動量や内容が過剰にきついものであったり、そこでの人間関係がいじめのように過酷なものであったりすると、ストレスの量は爆発的に増大することになります。一方、たとえば幼い頃から内気で引っ込み思案であったり、保護者に依存し過ぎて、自分でストレスや現実の問題を解決する経験が過度に少なかったり、あるいはプライドが傷つくことに敏感すぎて、失敗や恥を恐れ過ぎたりすると、ストレスを処理するこころの力はどうしても減少します。これらはあくまで例にすぎませんが、このような理由が組み合わさって、ストレス量とそれを処理するこころの力のバランスが崩れるとひきこもりが生じやすくなります。
【小学2年生のお子さんをもっFさん(38歳、女性)の場合】
小学2年生になった三男は、素直で大人しい子どもでした。でも決まった予定をきっちり守らないと気に入りません。たとえば、いつもより早い時間に夕食ができても、「今は本を読む時間だよ」と言って、夕食そっちのけで読書をしています。
担任の先生に聞いてみると、学校では、冗談が通じないとか、自分の興味があることを一方的に大きな声で話してしまうこともあるようです。授業中に話を聞いていないことが多いかと思うと、自分だけ発表したがったりする。場違いなところで大きな声を出すなど、ルールがよくわかっていないようです。何か失敗すると、ひどくパニックになって、教室から飛び出してしまうこともあるそうです。
1年生のときは、まだ学校に馴染んでいないのかと思ったのですが、2年生になってからも続くので、心配になって近くの精神科に相談しました。発達障害の傾向があるとのことでした。先生とも相談して、学校でも家庭でも生活環境の調整をすることで、少しずつ場にそぐわない行動が改善されています。