2019年11月19日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の48回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖産業精神保健の基本問題(産業メンタルヘルスの基本問題)〗(ⅩⅩⅩⅣ)
◎産業精神保健活動(産業メンタルヘルス活動)の範囲と優先順位②
●「企業の社会的メンタルヘルス責任」の外延
⇒近年、企業は利益の追求だけでなく、顧客、株主、従業員(労働者)、取引先、地域社会などのさまざまなステークホルダー(利害関係者)との関係を重視して、そのメンタルヘルスに関する社会的責任(corporate social responsibility:CSR)を果たしていくべきであることが強調されるようになっています。そして、その社会的メンタルヘルス責任への取り組みの一部として、産業精神保健(産業メンタルヘルス)活動を推進するという表明を行っているところもみられます。
CSRに基づく産業精神保健活動(CSRに基づく産業メンタルヘルス活動)は、安衛法の遵守や事業者の安全配慮義務の履行を堅持している限りメンタルヘルス上の問題はないです。しかし、多様なステークホルダーに対してわかりやすい形で公表するため、産業メンタルヘルス活動の外延を拡大すると、中核であるべきそうした産業メンタルヘルス活動の優先順位が見失われてしまう恐れのあることに注意が必要でしょう。
●産業メンタルヘルス活動における優先順位の付け方
⇒ここまで述べてきたように、産業保健活動などメンタルヘルス活動としての産業精神保健活動には、優先順位があり(産業メンタルヘルス活動には、優先順位があり)ます。
メンタルヘルス不調の原因は、大半の例で一つではないです。職場や仕事に関連するメンタルヘルス因子がそのメンタルヘルス不調の一部を形成していることも多いが、ほかにも家庭でのメンタルヘルス要因や個人でのメンタルヘルス要因(メンタルヘルス不調者の遺伝的素因、メンタルヘルス不調者の性格傾向、メンタルヘルス不調者の物事の考え方、メンタルヘルス不調者のストレス対処の仕方など)が関与しているのが一般的といえます。したがって、職場や仕事に関するストレスを軽減すべく環境調整をしても、メンタルヘルス状態が改善に向かわない例も少なくないです。
しかし、だからといって、産業保健職などメンタルヘルス職がそのメンタルヘルス評価やメンタルヘルス不調改善のメンタルヘルス活動に十分注力せず、個人でのメンタルヘルス要因(変容可能な部分)への働きかけに邁進するのは、産業メンタルヘルス活動における優先順位を取り違えているというべきでしょう。個人でのメンタルヘルス要因への働きかけを行う際は、時間と手間をかけた職場環境のメンタルヘルス評価と職場のメンタルヘルス不調改善に続いて行うか、少なくとも同時並行の形で進められるべきです。
さらに、個人でのメンタルヘルス要因への働きかけは、当該メンタルヘルス不調者やそのメンタルヘルス不調者の周囲から「当該メンタルヘルス不調者本人がメンタルヘルス不調に陥ったのは、職場環境ではなく、メンタルヘルス不調者側個人のメンタルヘルス問題に帰するところが大きいとの(職場側の)考え方に基づいている」、そして「メンタルヘルス不調者個人への働きかけにかかわるメンタルヘルス活動の実施担当者もその考え方に同調している」などといった見方をされ、メンタルヘルス不調者個人に不信感を抱かせてしまう危険も内包しています。産業保健職などのメンタルヘルス職が、職場でのメンタルヘルス活動の実施担当者となる場合には、そうしたメンタルヘルス不調者個人に不信感を抱かれる可能性も考慮するべきでしょう。集団メンタルヘルス教育として行われる場合にも、同様のことが言えます。ストレスやメンタルヘルス疾患の解説などの一般的なメンタルヘルスの知識、メンタルヘルス情報の提供から一歩踏み込んだメンタルヘルス不調者個人への働きかけを行う際には、産業保健職などメンタルヘルス職、人事労務管理部署などの間で、事前によく打ち合わせをし、当該メンタルヘルス不調者自身やメンタルヘルス教育の受講者に誤解を与えないようにすることが望まれます。
こうしたことから、職場における産業精神保健活動(職場における産業メンタルヘルス活動)は、「何を行うか?」だけでなく「何を行わないか(後回しにするか)?」、「誰が職場における産業メンタルヘルス活動を行うべきか?」をも議論して進められるべきです。「メンタルヘルス不調を減らせる効果が高い順に(仮にそのメンタルヘルス不調の軽減効果が判明しているとして)実施する」、「その職場における産業メンタルヘルス活動への取り組みについて、もっとも高い技術を有している産業保健担当者などのメンタルヘルス担当者が実施する」というメンタルヘルス判断が、必ずしも最善手ではないことに注意すべきでしょう。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。