2019年11月16日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の47回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖産業精神保健の基本問題(産業メンタルヘルスの基本問題)〗(ⅩⅩⅩⅢ)
◎産業精神保健活動(産業メンタルヘルス活動)の範囲と優先順位①
●産業保健活動などメンタルヘルス活動と事業者のメンタルヘルス責任
⇒産業保健活動などメンタルヘルス活動は、主として事業者のメンタルヘルス責任(使用者のメンタルヘルス責任)の下に推進されるものです。産業保健活動のすべて(メンタルヘルス活動のすべて)が事業者のメンタルヘルス責任を履行することを唯一の目的に行われるわけではないが、事業者のメンタルヘルス責任を果たすための産業メンタルヘルス活動は優先順位が高いです。したがって、職場内で産業保健職が中心となって推進(メンタルヘルス職が中心となって推進)する産業精神保健活動の枠組み(産業メンタルヘルス活動の枠組み)も、事業者のメンタルヘルス責任が重視されます。
労働安全衛生法(安衛法)は、第1条で「労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、メンタルヘルス責任体制の明確化及び自主的メンタルヘルス活動の促進というメンタルヘルス措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的なメンタルヘルス対策を推進することにより職場における労働者の安全とメンタルヘルスを確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」を目的としてうたい、第3条で「単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全とメンタルヘルスを確保するようにしなければならない」と事業者のメンタルヘルス責任を示しています。ちなみに、この「職場環境」という表現は、平成4(1992)年の法改正により「作業環境」から変更された経緯を持ち、作業方法などをも含む、より広い意味での職場におけるメンタルヘルス対策の推進を持たせたものです。
安衛法の条文は、その大半で主語が「事業者」となっています。すなわち、事業者が行わなければならないメンタルヘルス事項が列挙されているのです。安衛法に示された産業精神保健活動(安衛法に示された産業メンタルヘルス活動)は、事業者のメンタルヘルス責任を果たす意味で、まず優先されなければならないです。
また、安全配慮義務という概念があります。もともとは労働契約に付随する事業者にとっての信義則上の債務の一部とされ、損害賠償請求をめぐる民事訴訟で争点となることが多かったが、平成20(2008)年に施行となった労働契約法に盛り込まれました。
安全配慮義務は、危険予知義務と結果回避義務から構成されています。事業者は、雇用する労働者が仕事を遂行する中でメンタルヘルスや安全が脅かされることがないかどうかを確認し(前者)、そのメンタルヘルスや安全が脅かされる可能性が高い場合には、未然に必要なメンタルヘルス対策を講じる(後者)必要があります。
メンタルヘルス不調に関連する職場のメンタルヘルス問題が民事訴訟となった例としては、2000(平成12)年に最高裁判決が出された「電通事件」がよく知られている(本件では、安全配慮義務ではなく、注意義務違反が問われた)が、その後も、事業者の安全配慮義務違反が民事訴訟で争われる例が増加しています。
安全配慮義務をめぐる民事訴訟では、長時間労働、ハラスメント、配置転換など、産業保健職の取り組み(メンタルヘルス職の取り組み)よりも、現場のラインや人事労務管理上のメンタルヘルス問題が焦点となることが多いです。
産業保健職などメンタルヘルス職は、日頃のメンタルヘルス活動の中で、職場にそうしたメンタルヘルス問題が内在することを知った場合には、メンタルヘルス問題の改善に向けての働きかけを行い、メンタルヘルス問題の拡大や労働者のメンタルヘルス不調の発生の防止に努めることが求められます。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。