2019年09月28日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の31回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖産業精神保健の基本問題(産業メンタルヘルスの基本問題)〗(ⅩⅦ)
~メンタルヘルス相談者のメンタルヘルス問題を整理する際のポイント~
◎「5W1H」でメンタルヘルス問題を整理する
⇒メンタルヘルス相談に来たメンタルヘルス不調者の訴えを単にだらだらと聞いているだけでは意味がないです。たとえ時間をかけて多くのメンタルヘルス情報を得ても、メンタルヘルスの問題点が整理されずメンタルヘルス不調に関する見立て(アセスメント)や次のメンタルヘルス対策へのアクションにつながるものでなければせっかくの時間が無駄になってしまいます。メンタルヘルス問題の整理のしかたの一つとして、「5W1H」を念頭に置いてメンタルヘルス問題を考え分析すると、わかりやすくなります(表1)。
◇表1 5W1H
『WHO:誰がメンタルヘルス相談に来たのか/誰がメンタルヘルス問題になっているのか/誰がメンタルヘルス問題で困っているのか
WHAT:業務上のメンタルヘルス問題(業務の量、業務の質、適性、人間関係、キャリア、異動、勤務形態、休職および復職(休職およびリワーク)、その他)/業務外のメンタルヘルス問題(家族、メンタルヘルス状態、経済、婚姻、人間関係、事故、ジェンダー、その他)
WHERE:職場内でのメンタルヘルス問題の現れ方/職場外でのメンタルヘルス問題の現れ方
WHEN:いつからメンタルヘルス問題になっているのか/どんなときにメンタルヘルス問題になっているのか
WHY:なぜこのタイミングでメンタルヘルス相談したのか/なぜあなたにメンタルヘルス相談したのか
HOW:これまでどうメンタルヘルス問題を解決しようとしてきたか/それでメンタルヘルス問題の解決がどうだったか』
●WHO:誰がメンタルヘルス相談に来たのか、誰がメンタルヘルス問題になっているのか、誰がメンタルヘルス問題で困っているのか
⇒これらはすべて異なるメンタルヘルス不調者である場合もあります。たとえば、「最近表情が暗く職場を休みがちな部下がいて(=職場においてメンタルヘルス問題になっているメンタルヘルス不調者)、仕事をいつもともにやっている同僚のストレスが大きくなっている(=困っている人)ため、見かねた上司がメンタルヘルス管理室を訪れた(=メンタルヘルス相談に来た人)」というようなケースです。職場におけるメンタルヘルス支援のメンタルヘルス対象になるのはこの時点で少なくとも3人いることになります。
●WHAT:何がメンタルヘルス問題なのか
⇒メンタルヘルス相談者はたくさんのことについて話すかもしれないし、まとまりのない話になっているかもしれないです。逆にメンタルヘルス相談に来たものの遠慮してあまり話さなかったり、まわりくどい話し方になることもあります。できるだけメンタルヘルス問題について要点を整理しメンタルヘルス問題点を明らかにします。メンタルヘルス管理室というメンタルヘルス相談場所の性質上、当該メンタルヘルス相談者からは主に職場におけるメンタルヘルス不調について語られることが多いが、それ以外のメンタルヘルス問題も浮き彫りになることがあります。職場での業務上のメンタルヘルス問題(業務量、適性、人間関係、キャリアなど)と職場以外での業務外のメンタルヘルス問題(個人のメンタルヘルス状態、経済、婚姻、家族、人間関係など)に分けて職場でのメンタルヘルス問題について整理するとよいです。特にプライベートなことについてはメンタルヘルス不調者本人から自然に話すようになるのを待つほうがよい場合もあります。
●WHERE:どこでメンタルヘルス問題になっているのか
⇒当該メンタルヘルス不調者のメンタルヘルス問題がどこで起こっているのかを確認します。職場のみにおけるメンタルヘルス問題なのか、それとも家庭など職場外でもメンタルヘルス問題になっているのか。職場内と職場外でのメンタルヘルス問題の現れ方は同様のものか、それとも職場内外でのメンタルヘルス問題の現れ方は異なっているのか。たとえば、職場では気分が憂うつで元気がない様子であるが家庭ではイライラして家族に当たっている、オフィスでは普通に仕事をしているが営業先ではほとんど行動していない、などです。
●WHEN:いつからメンタルヘルス問題になっているのか、どんなときにメンタルヘルス問題になっているのか
⇒メンタルヘルス問題が起こり始めた時期、あるいはメンタルヘルス問題を周囲が把握した時期について把握します。「いつから」とは入社した当初からメンタルヘルス問題なのか、異動してからメンタルヘルス問題なのか、何年何月頃メンタルヘルス問題なのか、メンタルヘルス問題が何か出来事のあった時期と一致しているか、などです。「どんなときに」とはメンタルヘルス問題の時間帯やメンタルヘルス問題の場面などを指し、「午前中はいつも気分が憂うつで落ち込み元気がない様子」などです。
●WHY:なぜメンタルヘルス相談に来たのか
⇒メンタルヘルス不調者本人がメンタルヘルスの問題を自覚していたり、周囲がメンタルヘルスの問題に気づいていたりしても、すぐに産業医や産業保健スタッフなどメンタルヘルス管理スタッフにメンタルヘルス相談するとは限らないです。「こんなことは人にメンタルヘルス相談すべきことではないだろう」とメンタルヘルス不調者自ら抱え込んでしまったり、あるいはすでに他者にメンタルヘルス相談しているかもしれないです。「なぜ今このタイミングでメンタルヘルス相談に来たのか」「なぜあなたのもとにメンタルヘルス相談しに来たのか」というメンタルヘルス視点も忘れずにメンタルヘルス情報収集します。また、メンタルヘルス相談に来たのはメンタルヘルス不調者自身の意思なのか、あるいは同僚に勧められたからか、上司の勧めや指示かというメンタルヘルス情報も、当該メンタルヘルス不調者本人の職場におけるメンタルヘルス問題意識をはかる上で重要です。
●HOW:これまでどうメンタルヘルス問題を解決しようとしたか、それでメンタルヘルス問題がどうだったか
⇒起こったメンタルヘルス問題に対してメンタルヘルス相談者やその周囲の人々がこれまでどのようなメンタルヘルス対応を取り、その結果メンタルヘルス問題がどうなったかを確認します。それまでに取られてきたメンタルヘルス対応が必ずしも適切でなかったこともあります。しかし、ここでは適切でないメンタルヘルス対応を批判することは避け、適切でないメンタルヘルス対応を取らざるを得なかったメンタルヘルス事情も理解します。
●YES/NO、WHICH
⇒「5W1H」で得られたメンタルヘルス情報などを利用して「困っていらっしゃるのはAさんとBさんなのですね」のようなYES/NO式の質問、「あなたが職場で先にメンタルヘルス相談した相手は上司ですか、それとも同僚ですか」のようないくつかの選択肢から一つを選ぶ質問をしながら、職場におけるメンタルヘルス問題をまとめていきます。
上記のように、職場におけるメンタルヘルス問題に対してどのような聞き方をするかによって得られるメンタルヘルス情報量、メンタルヘルス情報の明確さ、職場におけるメンタルヘルス問題への答えにくさはそれぞれ異なるということを知っておく必要があります。
上司や同僚など職場関係者とメンタルヘルス相談に来るようなメンタルヘルス不調者本人自身が、職場で現在抱えているメンタルヘルス問題点をメンタルヘルス不調者自らきちんと整理して話してくれることは少ないので、こちらからメンタルヘルス問題点を整理しやすいような聞き方を意識することが必要です。ただし、はじめからこちら側が「5W1H」にむりやり誘導しようとすると、メンタルヘルス面談が機械的で心の通わないものになる危険性があるので、たとえば、ひととおりメンタルヘルス相談者の話を聞いた後で、YES/NOやWHICHの質問を加えて職場におけるメンタルヘルス問題点を確認し整理するとよいです。
~緊急時メンタルヘルス対応~
⇒メンタルヘルス相談を受けた場合、まずメンタルヘルス判断する必要があるのは、「その場で即刻メンタルヘルス対応する必要があるのか多少とも時間があるのか」です。メンタルヘルス不調者本人がかたい表情をして拒否的で、死にたいと漏らしている場合は、その場ですぐに安全を確保してメンタルヘルス科専門的治療へ繋ぐ必要があります。そのためこのようなメンタルヘルス状態への緊急時のメンタルヘルス対処は、事前に決めておく必要があります。
最初にメンタルヘルス相談を受けた者は、ほかの者よりメンタルヘルス不調者本人との信頼関係がある可能性が高いため、メンタルヘルス対応の中心者となります。産業保健スタッフなどメンタルヘルス専門スタッフは、そのメンタルヘルス対応者へのメンタルヘルス支援を行います。緊急時にメンタルヘルス相談しメンタルヘルス科緊急入院できるメンタルヘルス科専門病院や保健所などのメンタルヘルス相談窓口の電話番号やメンタルヘルス担当者の名前、緊急時にも拘わらずメンタルヘルス不調者本人がメンタルヘルス科受診を拒否したときのメンタルヘルス対応の手順などを具体的にメンタルヘルス対応手順マニュアルなどに記載しておくことは、事前のメンタルヘルス対策として不可欠と考えられます。
一般的には家族と連絡を取り、家族にメンタルヘルス対応してもらうことになります。メンタルヘルス不調者本人を家族のところまで連れて行くことも考えられるが、不測の事態もあり得るため、会議室など安全な場所を確保して、家族の到着を待ちます。当該メンタルヘルス不調者本人が単身者など家族のメンタルヘルス支援が期待できない場合は、保健所に連絡を取りメンタルヘルス対応の指示を仰ぎます。万が一暴れる場合は、警察に保護を依頼します。緊急性のメンタルヘルス判断に迷う場合は、より緊急性があるものとしてメンタルヘルス対応します。
できるかぎり大勢のメンタルヘルス関係者が集まることは、たとえ直接メンタルヘルス担当できることがなくとも、「いる」こと自体がメンタルヘルス対応者に対して直接のメンタルヘルス的支援となります。同時にメンタルヘルス関係者に参加してもらうことは、メンタルヘルス当事者意識を持つことに繋がります。メンタルヘルス当事者意識は、万が一メンタルヘルス対応がうまくいかなくて残念なメンタルヘルス結果となった場合、そのメンタルヘルス事実を受け止めて再出発する際に、「自分は何もしなかった(できなかった)」などの残念なメンタルヘルス結果に対する罪悪感から直接のメンタルヘルス対応者らをスケープ・ゴートとして非難することなどのメンタルヘルス予防にもつながります。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。