2019年09月18日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の27回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖産業精神保健の基本問題(産業メンタルヘルスの基本問題)〗(ⅩⅢ)
~メンタルヘルス不調に関するアセスメントに臨む前に~
◎守秘義務について理解する
⇒刑法第134条(医師、歯科医師、薬剤師ら)、保健師助産師看護師法第42条の2、精神保健福祉士法第40条にて、正当な理由なく職務上知り得た秘密を漏らしてはならない(守秘義務)と規定されています。これにより、産業医、保健師など産業保健スタッフが職務上知り得たメンタルヘルス情報はメンタルヘルス不調者本人の同意なくもらすことはできないです。一方、人事担当者や上司にはメンタルヘルス情報への法的な規制はないが、メンタルヘルス不調者本人のメンタルヘルスに関する情報という究極の個人メンタルヘルス情報を知り得る立場にあるので、守秘義務に準じた倫理観をもつ必要があります。個人メンタルヘルス情報を保証することは職員が安心してメンタルヘルス相談できる環境づくりにおいて欠かせないです。職員に「メンタルヘルス管理室にメンタルヘルス相談したら上司や人事に伝わるのではないか」と思われると、メンタルヘルス相談はなかなかできないでしょう。この個人メンタルヘルス情報保護の対策として、メンタルヘルス管理室からの便りなどに「メンタルヘルス相談者の秘密は厳守する」というメッセージを記載するなどして個人メンタルヘルス情報保護の周知を図ります。
ただし、守秘義務にも例外はあります。自傷他害のおそれ(自分自身を傷つけたり自殺を実行に移す危険性や他人に危害を加える危険性)が高い場合は守秘義務よりも安全配慮義務が優先され、速やかに職場、人事、家族に報告する必要も出てきます。また、児童虐待の疑いがある場合は児童相談所への通報も検討しなければならないです。
メンタルヘルス相談者に対しては、メンタルヘルス科面接の冒頭で個人メンタルヘルス情報など秘密を厳守する旨を伝えます。もし他者とメンタルヘルス情報共有することに同意を得た場合でも、メンタルヘルス情報共有する対象者の範囲(誰にまでならメンタルヘルス情報共有してよいか)とメンタルヘルス情報共有する内容の範囲(すべてメンタルヘルス情報共有してよいか、メンタルヘルス情報共有してほしいメンタルヘルス情報は何か、メンタルヘルス情報共有してほしくないようなメンタルヘルス情報は何か)を確認しておき、第三者とメンタルヘルス情報共有した後はメンタルヘルス情報共有した旨をメンタルヘルス相談者にフィードバックします。
◎メンタルヘルス科主治医(精神科医・心療内科医)と産業医など産業保健スタッフの立場の違いを理解する
⇒先述(2019年9月14日掲載)の疾病性と事例性の話に通じることだが、ふだんメンタルヘルス科診察によって臨床を行っているメンタルヘルス科主治医(精神科医師・心療内科医師)は、メンタルヘルス不調者本位の立場から、メンタルヘルス科診察室においてもっぱら目の前のメンタルヘルス不調者の訴えをもとに、メンタルヘルス科診断やメンタルヘルス科治療方針などを考えていくというメンタルヘルス不調者個人へのメンタルヘルス対応を行います。一方、産業医などの産業保健スタッフは職場内にいるため、上司や同僚などメンタルヘルス不調者本人以外からのメンタルヘルス情報を比較的容易に入手できる(メンタルヘルス情報を入手しようとしないでもメンタルヘルス情報が入ってきてしまうことさえ多い)立場にあるので、メンタルヘルス不調者個人へのメンタルヘルス対応とともに集団へのメンタルヘルス対応も同時に考える必要があります。極端な例でいえば、メンタルヘルス不調者本人の訴える職場のストレスが、同僚や上司など第三者の目から見て軽度のストレスである場合、当該メンタルヘルス不調者本人のメンタルヘルス不調の程度から考えて職場のストレスを過大な訴えと受け取られる場合もあります。
このように、疾病性を重視しなければならないメンタルヘルス科主治医(心療内科医・精神科医)の立場と、職場における事例性を軽視してはならない産業医など産業保健スタッフの立場の違いから、重要視すべきメンタルヘルス情報が異なるといったことはどうしても起こってきます。この職場のメンタルヘルスにおける疾病性と事例性の差を埋めるためには、疾病性が専門であるメンタルヘルス科主治医(心療内科医師・精神科医師)と事例性が専門である産業医など産業保健スタッフとの職場におけるメンタルヘルス情報共有が大切です。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。