2019年09月11日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の25回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖産業精神保健の基本問題(産業メンタルヘルスの基本問題)〗(Ⅺ)
~メンタルヘルス科専門医(精神科医・心療内科医)紹介で気をつけるポイント①~
厚生労働省のメンタルヘルス調査からもわかるように、メンタルヘルス障害によるメンタルヘルス不調者数が10年ほどで倍増しています。メンタルヘルス不調者数の増加には時代や環境の変化などの影響による新型うつ病などのメンタルヘルス疾患などが関与しているが、概してメンタルヘルス科受診者のメンタルヘルス症状軽症化という特徴があげられます。実際メンタルヘルス科外来診療では、即メンタルヘルス科入院を考えなければならない重症メンタルヘルス不調者の割合は少なくなっている傾向があります。
事業場内でのメンタルヘルス相談体制が充実化されるほど、軽症メンタルヘルス不調レベルのメンタルヘルス相談が増えることにもなります。その結果、うつ病などメンタルヘルス疾患の診断まで至っていない適応障害といった軽症メンタルヘルス不調レベルが疑われるケースも増えることになります。メンタルヘルス疾患が重症化しないことは勤労者のメンタルヘルスにとっても職場のメンタルヘルスにとってもよいわけだが、メンタルヘルス科専門医師(精神科医師・心療内科医師)への紹介には注意が必要です。適応障害などの軽症メンタルヘルス不調はうつ病などのほかのメンタルヘルス疾患のメンタルヘルス診断基準を満たさないことが条件となります。裏を返せば、ほかのメンタルヘルス疾患のメンタルヘルス診断がつくほど重症メンタルヘルス障害ではないということを意味します。概してメンタルヘルス疾患に対する薬物治療以上に、職場環境の調整などでメンタルヘルス対応すべきケースも多いです。職場でメンタルヘルス対応すべきケースはメンタルヘルス専門医(心療内科医・精神科医)に紹介する際に、職場でメンタルヘルス問題が事例化したメンタルヘルス状況を十分にメンタルヘルス専門医師(心療内科医師・精神科医師)に伝えることが大変重要です。なぜなら、主治医にとってメンタルヘルス科初診時はメンタルヘルス不調者本人と初対面であり、病前のメンタルヘルス情報がない中で病前のメンタルヘルス状況との変化を推測するためです。
メンタルヘルス科専門医紹介で気をつけるポイントを表1に列挙してみました。詳細を以下に説明します。
◇表1 メンタルヘルス科専門医に伝えるポイント
『①事例性に関するメンタルヘルス情報:なぜ、メンタルヘルス科紹介に至ったのか
②職場環境に関するメンタルヘルス情報:業務内容、労働の過重性、適応性や遂行能力、他者との交流、上司や同僚など職場のメンタルヘルスサポート体制
③問いたいメンタルヘルス情報(個人情報保護など個人メンタルヘルス情報の取り扱いを伝えた上で):疾病性に関すること…疾病性の有無、メンタルヘルス疾患の重症度、療養の要否、メンタルヘルス科治療の見通し/業務上の配慮に関すること…配慮の要否、メンタルヘルス対応の内容(質および量の調整など)』
◎疾病性と事例性の理解とそのメンタルヘルス情報
⇒疾病性はメンタルヘルス科専門医がメンタルヘルス評価しメンタルヘルス疾患の有無やメンタルヘルス疾患の重症度を意味します。それに対し事例性は職場が評価し職場でメンタルヘルス問題となっている事項の有無やメンタルヘルス問題の程度ということになります。表2に示しているが、人事や上司から産業医にメンタルヘルス相談があった場合は事例性が生じていることが多いと思われます。メンタルヘルス科専門医紹介の際には職場でどのようなことがメンタルヘルス問題になっているのかを、紹介状に明記しておく必要があります。一方でメンタルヘルス不調者本人からメンタルヘルス相談があった場合や、産業医が問診でメンタルヘルス不調の疑いを持ったときは、事例性が生じていないケースもあるでしょう。その際もできればメンタルヘルス不調者本人の了解を得て、上司から職場でのメンタルヘルス不調者本人の様子をうかがい、事例性の有無を確認したうえでメンタルヘルス科紹介するのが望ましいです。実際はメンタルヘルス不調者本人が上司への連絡を拒否する場合もときにあり、自傷他害といった生命のリスクが高くなければまずは無理をしなくてよいが、メンタルヘルス不調者本人の職場適応の協力をしたいという意向を伝えタイミングを見て試みたいです。「産業医から口頭でメンタルヘルス科への受診を勧められた」と紹介状も持たずにメンタルヘルス科専門医を受診するという場合は、メンタルヘルス科診察の場でメンタルヘルス不調者本人が述べるメンタルヘルス情報のみでのメンタルヘルス判断となります。事例性に関するメンタルヘルス情報が乏しいと、過少メンタルヘルス判断「必ずしもメンタルヘルス科外来通院して内服をすべきケースではない」あるいは、過剰メンタルヘルス判断「うつ病などメンタルヘルス疾患にて本日から休業すべき」というメンタルヘルス診断が下されてしまうこともあり得ます。精度の高いメンタルヘルス診断を望むのであれば、なぜこの度メンタルヘルス科紹介するに至ったのか、その事例性に関するメンタルヘルス情報が丁寧に記載された紹介状は不可欠です。
◇表2 疾病性と事例性
『①疾病性あり、事例性あり:メンタルヘルス科専門医の意見をもとに職場で就業上の配慮を決定
②疾病性あり、事例性なし:メンタルヘルス科専門医など専門家によるメンタルヘルス科専門治療
③疾病性なし、事例性あり:人事労務上の問題として検討
④疾病性なし、事例性なし:メンタルヘルス医学的にも社会的にも健康』
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。