2019年09月04日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の20回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖産業精神保健の基本問題(産業メンタルヘルスの基本問題)〗(Ⅵ)
◎事例性の重視③
●「事例性」の考え方とそれを重視した産業メンタルヘルスへの取り組みⓑ
⇒疾病性の有無と事例性の有無は、必ずしも重なり合わないです。事例性と疾病の存在の有無の関係は、以下に述べるように整理できます。
メンタルヘルス疾患を発症している例の大半は、そのメンタルヘルス症状のために、作業効率の低下をはじめとして、職場でも何らかの形で事例化しています。しかし、疾病がある、すなわちメンタルヘルス医学のメンタルヘルス診断基準によって何らかのメンタルヘルス疾患があるメンタルヘルス状態でも、職場で事例に至らないものがあります。メンタルヘルス医療に継続的につながってメンタルヘルス症状としては安定しており、周囲もいつとはなくメンタルヘルス不調者本人のメンタルヘルス問題とそのメンタルヘルス問題に伴う仕事の限界を察知して配慮がなされ、就業を続けることができているメンタルヘルス不調者の例が挙げられます。また、怠業、不定期の欠勤など、事例としては看過できないメンタルヘルス問題を起こしていても、そのメンタルヘルス問題の主因がメンタルヘルス不調の範疇には入るものの、疾病には至っていないメンタルヘルス不調者の例もあります。
昭和40年代頃よりこの産業メンタルヘルス領域を牽引してきた、一人のとある産業メンタルヘルス啓発者は、「職場の精神衛生が『異常者』や病的なものを見つけ出すことにある(職場のメンタルヘルスが『異常者』や病的なものを見つけ出すことにある)としたら、それは大きな過ちをおかすことになる。職場でメンタルヘルスの問題にされ、事例とされたことからメンタルヘルスの問題が出発するのであって、職場で事例化されたメンタルヘルスの不調にメンタルヘルス医学的診断名をつけることには、よほど慎重でなければならない。職場でのメンタルヘルス医学的診断名に慎重なのは、学校でも地域社会でも同じことであるが、メンタルヘルス医学的診断名がつけられてから、メンタルヘルス不調者本人のメンタルヘルスケアが進むか、メンタルヘルス不調者本人が除外される方向にむくかが職場でのメンタルヘルスの問題になる。むしろ後者のメンタルヘルス不調者本人が除外される力を恐れるため、多くのメンタルヘルス科専門医(精神科医・心療内科医)は敢えて誤診をするのである。(中略)ことに企業が順調な経営状態にある時代には、メンタルヘルス不調者にある程度の寛容度を持ち続けるが、不況の時代になるほど、メンタルヘルス不調者を除外する力はつよくならざるを得ない。(中略)職場の精神衛生は、病気の発見を追求するものであってはならず(職場のメンタルヘルスは、病気の発見を追求するものであってはならず)、メンタルヘルス不調者はもちろん、健康者とされている人たちの生活と精神健康をいかにして守るかという方向を指向しなければならない(メンタルヘルスをいかにして守るかという方向を指向しなければならない)と思われる」と提言しています。やはり産業精神保健領域(産業メンタルヘルス領域)に長く関わり、メンタルヘルス関連の著作の多い別の産業メンタルヘルス啓発者も、産業精神保健について(産業メンタルヘルスについて)は「狭義のメンタルヘルス疾患のみならず、かなり幅の広い職場適応・不適応という観点と、精神健康(職場適応・不適応という観点と、メンタルヘルス)、そしてメンタルヘルス障害の相互の関係を幅広いスペクトラムの中でメンタルヘルス診断し、さまざまな職場のメンタルヘルス対応の方針を打ち出すような、総合的な職場のメンタルヘルス対策への展望が必要」であり、「疾病管理は絶対的なものだが、広義の精神健康の保持(メンタルヘルスの保持)とメンタルヘルス向上という意味での精神健康管理(メンタルヘルス管理)はそのメンタルヘルス管理の価値基準がもっと相対的なものであって、職場のメンタルヘルス管理では適応という概念が関与」すると述べています。これら産業メンタルヘルスに関する言説は、産業精神保健にとって、事例性を重視する視点がいかに重要かを示唆(産業メンタルヘルスにとって、事例性を重視する視点がいかに重要かを示唆)しているといえるでしょう。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。