2019年08月07日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の8回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】◎職場のメンタルヘルスに対する行政の動き(Ⅳ)
●事業者の安全配慮義務と労働契約法
⇒旧メンタルヘルス指針が公表された2000(平成12)年、電通事件の最高裁判決が下り、原告の訴えがほぼ全面的に認められたことが新聞等で大きく報道されました。この裁判は1991(平成3)年、自殺したメンタルヘルス不調者の遺族が、メンタルヘルス不調者本人の勤務先であった広告代理店を相手取って、責任を追及する民事訴訟を起こしたものです。最終的に、長時間労働を続けさせていたこと、長時間労働によるストレスに対して実効あるメンタルヘルス改善策を講じなかったこと、メンタルヘルス不調者本人の異変に気付きながら適切なメンタルヘルス対応を行わなかったことなどに関して、事業者の注意義務違反が認められたが、それ以後、労働者のメンタルヘルスに関する職場のメンタルヘルス対応が、事業者の安全配慮義務の履行という点で妥当であったかどうかについて争われる訴訟が相次ぎました。
2008(平成20)年には、労働契約法が制定されました。それまでは事業者の信義則上の債務の1つという位置付けであった安全配慮義務が組み入れられ、立法上も明文化されました。
●メンタルヘルス障害の労災認定
⇒すでに述べたように、1990年代半ばごろより、仕事に関連するストレスがメンタルヘルス不調を引き起こす例に関して多くの議論がなされるようになり、民事訴訟や行政訴訟も増加しました。このようなメンタルヘルス状況を背景として、厚生労働省は1999(平成11)年、「心理的ストレスによるメンタルヘルス障害等に係る業務上外のメンタルヘルス判断指針」(以下、労災判断指針)を示しました。これは、メンタルヘルス障害が業務上疾病として労災認定されるためのメンタルヘルス要件を示したものです。
2003(平成15)年には、「神経系統の機能又はメンタルヘルスの障害に関する障害等級認定基準について」が公表され、労災認定における非器質的メンタルヘルス障害の後遺障害について、新たな認定基準が設けられました。
労災判断指針の公表後、メンタルヘルス障害の労災請求件数は増加の一途を辿り、請求から支給決定までの期間が長期化しました。こうした事態に対し、2011(平成23)年には同指針の大幅な見直しが行われ、名称も「心理的ストレスによるメンタルヘルス障害の認定基準」と改称されました。基本的な考え方は労災判断指針を踏襲しているが、内容が詳細化するとともに、労災認定の手続きも一部簡素化されました。この影響もあり、翌2012(平成24)年度の認定件数は、前年度よりも150件増という大幅な伸びを示しました。
●自殺対策
⇒厳しい社会情勢は、自殺問題をも誘発しました。それだけが原因ではないとしても、わが国の自殺者数は、1998(平成10)年に急激に増加して以降2011(平成23)年に至るまで、年間3万人超というきわめて高い値が続きました。労働者(被雇用者、勤め人)に限っても、多い年には毎年9,000人以上が自ら命を絶ちました。国は2006(平成18)年、自殺対策基本法を制定し、2007(平成19)年には同法に基づいて推進されるべき対策の指針として「自殺総合対策大綱」を策定しました。大綱は2008(平成20)年に一部改正が、2012(平成24)年には全体的な見直しが行われました。その中では、職場においてもメンタルヘルス指針に沿ったメンタルヘルス対策への取り組み、ハラスメント対策、労働時間管理などを適切に行うことが求められています。
2012(平成24)年以降自殺者数は減少に転じているが、労働者におけるその傾向は全体よりも鈍いです。引き続き、自殺予防の視点をも包含したメンタルヘルス対策が検討されるべきでしょう。
●障害者雇用など
⇒厚生労働省は、1960(昭和35)年より「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)によって、障害者の雇用の促進を図ってきました。障害者雇用率制度によって法定障害者雇用率を定め、未達成の企業に対しては勧告、指導を行い、状況によっては企業名を公表しています。2006(平成18)年の法改正により、この障害者雇用率に、身体障害者、知的障害者に加え、メンタルヘルス障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)が計上されるようになりました。しかし障害者雇用の内訳を見ると、身体障害者、知的障害者に比べ、メンタルヘルス障害者は非常に低率にとどまっているのが現状です。2018(平成30)年には、メンタルヘルス障害者(単独)の雇用が義務付けられました。
他のメンタルヘルス対策と共に、メンタルヘルス疾病の理解、当該メンタルヘルス不調者の業務遂行能力のメンタルヘルス評価など、メンタルヘルス障害者の雇用推進に向けたメンタルヘルス対策への取り組みが、多くの企業で行われることが望まれます。また、産業医も職場のメンタルヘルス対策への取り組みに参画すべきでしょう。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。