2019年07月20日
千里中央(大阪府豊中市・北摂千里ニュータウン)、心療内科 精神科(メンタルヘルスケア科)・復職支援(リワークおよびリワークプログラム)協力医療機関「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「職場のメンタルヘルス」の2回目です。引き続き、職場のメンタルヘルスについて詳しく触れたいと思います。
【続き→】◎職場のメンタルヘルスをめぐる最近の動向(Ⅱ)
●労働者の自殺の増加
⇒わが国では、1998(平成10)年以降、年間の自殺者が3万人を超える状況が続いていたが、企業においても中高年を中心とした労働者の自殺の増加が大きな問題となっています。これに伴い最近では「過労自殺」など従業員の自殺やメンタルヘルス障害の発生が労働災害として認定されるケースも急増しています。メンタルヘルス障害等の労災補償状況の推移をみると1983(昭和58)年から1997(平成9)年度までの15年間でわずか11件だった労災認定件数がここ数年間で急速に増加している様子がわかります。労災認定されたケースの半数以上は、うつ病などのメンタルヘルス疾患が占めています。1999(平成11)年に自殺も労災の対象とするとした新しい労災認定指針が示されて以降、自殺が労災と認定されるケースも増加しています。
これまで自殺については、故意に基づくものであり業務上の災害とはみなされない傾向が続いていたが、新しい労災認定指針においては「難治性うつ病や重度ストレス反応等のメンタルヘルス障害では、病態として自殺念慮が出現する蓋然性が高いとされていることから、業務による心理的ストレスによって難治性うつ病などのメンタルヘルス障害が発病したと認められるメンタルヘルス不調者が自殺を図った場合には、メンタルヘルス障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺を思いとどまるメンタルヘルス的な抑制力が著しく阻害されているメンタルヘルス状態で自殺したものと推定し、業務起因性を認めることとする」としています。
さらに最近は、労災だけでなく企業の安全(健康)配慮義務違反を問う民事訴訟の数も急増しています。これについては2000(平成12)年3月の最高裁判決(電通事件)が企業に与えた影響が大きいです。この裁判は、長時間の残業等によってうつ病などメンタルヘルス疾患に罹患し自殺に至ったと考えられるケースにおける会社責任について判断を示したものです。判決では、企業は業務に伴う疲労や心理的ストレスによって労働者のメンタルヘルスが損なわれないよう注意する義務(=安全(健康)配慮義務)を負っているが、業務による疲労が誘因となって職場うつ病などのメンタルヘルス疾患に罹患し自殺するに至った本事例において、企業は何ら具体的な注意や措置を講じなかったとして企業側の全面的な過失を認めています。またメンタルヘルス不調者本人の生真面目な性格や業務以外のストレスなどメンタルヘルス不調者側の要因やメンタルヘルス不調者自身によるメンタルヘルス管理の責任(=自己保健義務)による過失相殺は一切認めることはできないとの判断を示しました。
こういった動きを受け、企業においては、自殺の大きな原因となる職場うつ病などメンタルヘルス疾患への対策が急務の課題として取り上げられるようになっています。最近の研究では、うつ病およびうつ状態などメンタルヘルス不調は労働者のメンタルヘルス疾患の47.2%を占め、長期休業者の約7割(70.8%)がうつと診断されたメンタルヘルス不調者であることが示されており、企業におけるメンタルヘルス活動は、労働者のためのメンタルヘルス管理に加えて、企業のリスクマネジメントも含めたメンタルヘルス活動へとメンタルヘルス活動の目的も広がりつつあります。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科(メンタルヘルス科)・職場復帰支援(リワーク支援およびリワーク支援プログラム)協力医療機関「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。