2018年07月11日
千里中央(大阪府 豊中市・千里ニュータウン)、心療内科 精神科「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「復職支援(リワーク)」の72回目です。引き続き、復職支援(リワーク)について詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖メンタルヘルス疾患の早期発見の手がかりとは?〗
労働者のメンタルヘルス不調は、近年非常に重要な問題として取り上げられています。本人向けのセルフ(メンタルヘルス)ケア研修、上司向けのライン(メンタルヘルス)ケア研修などのメンタルヘルスに特化した職場内研修会なども多くの企業で開かれるようになりました。しかし、現在でもメンタルヘルス不調のために休職する職員は増加傾向にあります。職場のメンタルヘルスを考える上でまずおさえておかなければならない点は、休職期間の長さとメンタルヘルス疾患の再発率の高さでしょう。ある統計によると、メンタルヘルス疾患における休業期間は平均5.2ヵ月と非常に長いです。また、一度大うつ病エピソードを体験した患者様のうち、半数以上が5年以内にメンタルヘルス疾患を再発します。特に薬物療法などが行われていない場合にメンタルヘルス疾患の再発率が高いとされ、メンタルヘルス疾患の再発を繰り返すほど重症度が増すことも知られています。このような状況で職場のメンタルヘルス対策として最重要となることが、メンタルヘルス疾患の早期発見と早期治療・早期対処です。ここでは、メンタルヘルス疾患に関する早期発見のポイントについて解説していきます。
●ストレス反応への気づき
職業性ストレスモデルでは、ストレスの原因になる外からの刺激をストレッサーと呼びます。人は日々の生活でさまざまなストレッサーに直面するが、職場では作業の質的・量的負担、職場の不十分な物理的環境や人間関係の問題などのさまざまなストレッサーに曝露されます。これらのストレッサーが大きくなると自己の認識にかかわらず、「疲れる」「イライラする」「仕事への不満を持つ」「意欲が低下する」「出社が困難になる」などの急性ストレス反応(ASR)が生じてきます。急性ストレス反応の出現のしかたは多様であり、抑うつ・職務不満足感などのメンタルヘルス的反応、血圧上昇や心拍数の増加・不眠・疲労感などの生理的反応、過食やアルコール飲用、喫煙や薬物使用、疾病休業や事故などの行動面での反応などがあります。
通常、このようなストレス反応は一時的なものであり、ストレッサーから離れて休憩・休息・睡眠などの適切な対処を行うことによって、メンタルヘルス不調などから回復可能なものです。しかし、適切な対処が施されてもなおストレスが持続する場合、結果的に心身症やうつ病などメンタルヘルス疾患に至ることになります。うつ病などのメンタルヘルス疾患の発症を予防するためには、これら急性ストレス反応を十分に理解し、可能なかぎり早期に発見し適切な対処を行う必要があります。しかし、ストレス反応の出現のしかたはその人の年齢や性別、性格傾向や行動パターン、ストレス対処の方法、仕事の熟練度、基礎疾患の有無や治療の状態など個人の特性によって大きく異なるため、一概に「これに気をつければ大丈夫」ということが困難です。重要なことは、メンタルヘルス症状とストレス反応を一義的に教科書的に結びつけることではなく、日常のコミュニケーションを普段から深めておくことで「いつもと比べて何か様子が変だ」という「気づき」にいかに早く至ることができるか、ということです。
◎薬物治療のみでは不十分
薬物療法として抑うつ状態には抗うつ薬、不安症状があれば抗不安薬が投与され、メンタルヘルス症状の軽減を期待することになります。しかし、それだけでは治療は完結していないです。メンタルヘルス症状が薬剤でいったん消失しても、業務が増えたときにその状態を脱する力が備わっていなければ、相変わらず同じ状況で再び同じ結果、すなわちうつ病などメンタルヘルス疾患が再発・再燃するのは明白です。ストレスがきわめて大きなメンタルヘルス疾患の発症要因である場合はその要因を取り除けばよいが、それ以外の場合には一定の個人的な素因や脆弱性がありメンタルヘルス疾患が発症すると考えれば、環境から影響を受ける自分に対してのメンタルヘルス対策を立てないかぎり、メンタルヘルス疾患の発症は防げないです。さらに言えば、遺伝要因があっても環境からの影響を回避できる可能性が大いにあると言えます。
◎心理療法を併用すると効果的
いったんメンタルヘルス障害になれば、薬も治療に欠かせないが、最近は心理療法が脚光を浴びています。認知療法、行動療法や対人関係療法などで、薬との併用でさらに効果があるといいます。たとえば、認知療法は自分の考え方の癖を修正することによって、ささいなことで憂うつな気分になっていたものが、同じ状況でも憂うつな気分が出にくくなる効果があります。上司に叱られると「自分はダメだと考え、その考えがぐるぐる回りだし、とうとう気分が憂うつになる」という思考回路を、「上司は自分の将来を考えて親心で叱ってくれている」と考えることによって気分は多少なりとも晴れてきます。自分はダメな人間だと考えた瞬間に精神安定剤を飲んでも、多少頭がぼー
っとして考えがあまり進まなくなるだけで、当たり前だが、ダメだという思考を遮断することはできないです。このように、思考パターンを変えるなど、自分自身に働きかけることが重要です。すなわち、メンタルヘルス障害の要因は自分の中にも潜んでおり、それを知りそのメンタルヘルス対策を立てないとメンタルヘルス障害は本当の意味では治っていかないです。また、何が自分にとって危険かわかれば、大きなメンタルヘルス障害の予防の効果もあります。仕事や上司を変えてほしいと要求し自分以外の要因を排除してストレスを回避しようとしているだけでは、おそらくメンタルヘルス障害はなかなか治らないです。しかもこのような外的因子は、自分の都合ではそう容易には変えられないことであり、さらに悪い環境になる場合さえあります。しかし、自分自身に対する働きかけはいつでもどこでもできます。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。