2018年02月04日
千里中央(大阪府 豊中市・千里ニュータウン)、心療内科 精神科「医療法人秀明会 杉浦こころのクリニック」の杉浦です。
今回は「復職支援(リワーク)」の2回目です。引き続き、復職支援(リワーク)について詳しく触れたいと思います。
【続き→】〖深刻な職場の「うつ」の実態〗
●データで読み解く「うつ」の現状
1991(平成3)年のバブル経済の崩壊は終身雇用、年功序列が当たり前であった日本の社会に大きな影響を与えることとなりました。リストラや成果主義などが導入されたことによって、瞬く間に日本の社会構造は変化を迫られたのです。実際に1998(平成10)年以降、2011(平成23)年まで14年連続で日本における自殺者数は年間3万人を超え、現在は2万人台前半まで減少していますが、世界各国の死亡率と比較しても、アメリカの約1.5倍、イギリスの約3倍の数値を示しており、いまだ「自殺大国」といえるほど深刻な社会問題となっています。
以前は健康問題を苦にした高齢者の自殺が多かったのですが、近年ではいわゆる働き盛り(30~50代)の人の自殺が増加傾向にあります。2015(平成27)年のデータによれば30~50代の自殺が自殺者総数の46.3%を占めており、働き盛りの世代にとって深刻な問題となっていることがうかがえます。
もちろんメンタルヘルスの問題は自殺だけではなく、メンタルヘルス障害の労災補償状況やメンタルヘルス疾患による休業者数の増加からもその深刻さを理解することができます。前者については、厚生労働省が発表した「過労死等の労災補償状況」によると1998(平成10)年は請求件数が42件、認定件数が4件であったのに対し、2015(平成27)年は請求件数が1515件、認定件数が472件とこの10数年の間に数十倍に増加しています。後者については、某地方公務員の長期休業者数のデータによれば1993(平成5)年に48972人いた職員数が、2014(平成26)年には24038人と半分以下に削減されているにもかかわらず、メンタルヘルス障害を原因として30日以上の休みを取った職員数は148人から346人と2.3倍に増加しており、およそ70人に1人がメンタルヘルス障害で休みを取っているという非常事態がうかがえます。
次に疾患別に休業者の割合を見てみると、がんや消化器系、循環器系の疾患の休業者の割合はそれほど変化をしていないのに対し、メンタルヘルス障害による休業者の割合のみが年々増加しているのです。
また、人事院が5年ごとに行っている「国家公務員長期病休者実態調査結果」でも、2011(平成23)年度の調査では国家公務員の職員数が減少しているのに対し、病気やけがで1ヵ月以上休んだ国家公務員の割合(長期病休者率)は2.0%となっており、また休業者5370人のうち64.6%はメンタルヘルス障害が原因とされ、前回調査(2006(平成18)年度)以降、メンタルヘルス障害による休業者が高止まりした状態が続いていることが明らかとなっています。
もちろんこれは公務員だけの問題ではなく、企業におけるメンタルヘルス不調者を調査したデータでも同様の傾向が出ています。企業の場合には休業者に関する統計データは開示されませんが、参考になるのは傷病手当金の傷病別支給割合です。傷病手当金については、病気で働けなくなった際に一定期間医療保険者から金銭が支給されるものです。全国健康保険協会(協会けんぽ)は中小企業等で働く従業員と家族約3700万人を対象とした医療保険者です。この割合を見ると1998(平成10)年以降メンタルヘルス疾患の占める割合が増え、2008(平成20)年からトップに躍り出ています。よって、官民問わず職場におけるメンタルヘルス障害による長期休業が珍しい出来事ではないことがわかるでしょう。
“Global Burden of Disease(病気のグローバルな損失)”というWHO(World Health Organization:世界保健機関)の報告で、社会全体に対する各疾患の経済的損失をまとめたものに基づくと、うつ病による社会全体に対する経済的損失は2030年には1位になると予測され、がんやHIVよりもうつ病が社会全体にもたらす損失が大きいとの報告がなされています。医療費や労働力などを考えると、うつ病は個人の問題ではなく、社会全体に大きな損失を生じているのです。
以上、千里中央駅直結・千里ライフサイエンスセンタービル16階・豊中市、心療内科「杉浦こころのクリニック」の杉浦でした。